1907年のバカラカタログの冒頭に、製品のタイポロジー全種類を見せるページにこのモデルの図案が使われている程、当時のバカラを代表するモデルです。
モデルの名称ですが1907年のカタログを見ますとモデル名、、、というかモデルを指定する記述は
Forme GONDOLE Jambe prisme e bouton
Taille:Jeux d'orgue de cote creuses
これを直訳すると
形:ゴンドラ型 脚:プリズムとボタン
カット:窪みリブのオルガンパイプ
ゴンドラが太い大文字で書かれていますが、普通略式のモデル名はカット、グラヴュール、エッチング等のデコレーションで他の同型モデルと区別するのでこのモデルは「Jeux d'orgue de cote creusesになります。 直訳すると「窪みリブのオルガンパイプ」。。。でもその直訳も、またフランス語の発音を全部カタカナ表記するのも冗長なので、独断で「オルガンリブ」とでも意訳しようかと思いましたが英語を使いたくないので「オルガンのパイプ」の部分だけ取り「ジュドルグ」と呼ぶ事にします。
英語を使いたくない、、、実は日本で浸透している「オールド」バカラという呼び方も好きではありません。日本のどこかのサイトで「、、、それらの古いバカラをオールドバカラと呼ぶ。」などと書いてありましたが、一体どこで誰がそう決めたの?と言いたくなります。きっと誰かがフランス語のancient baccarat を直訳したのでしょう。判り易いのは理解出来ますが、フランスの古いものを扱うのに「オールド」ではラテン系文化独特の雰囲気が乱暴に一掃されてしまう気がします。
とはいってもフランス語では判らない人も多いと思い、英語でも「アンティーク」を使用しています。アンティークの語源はラテン語 ”antiqua”なので違和感が少ないのです。
一般的なアンティークの定義では100年は経過していないとアンティークと呼ぶべきではないのは知っていますが、技術的にはほぼ変わらないのに1910年に作られたものはアンティークで 1930年に作られたものはそうでない、というのも変な話だと思うのです。ですので私は1962年にバカラがカタログを大幅にリノヴェーション、現代化するまでの製品をアンティークバカラと呼ぶことにしています。
ジュドルグ=Jeux d'orgue は直訳すると「オルガンの遊び」とか「オルガンの演奏」とも訳せますが、色々調べましたら楽器の専門用語でフランス語ではパイプオルガンのパイプの部分を指す様です。
日本ではJeux d'orgues と最後にSをつけて書かれている方が多いですが、パイプ=Jeuxは複数なので複数形ですがオルガン=orgueは一台ですから単数形で、Sは入れないのが正しいフランス語表記になります。
確かに実際こう訳してこのカットを見直してみると、パイプオルガンにインスピレーションを得ていると判ります。多分今まで気がつかなかったのはパイプオルガンというのは大抵見上げる様な位置に大きなスケールで設置されているのに、このカットはグラスの下部に控えめに施されているからでしょう。
但私、フランス語も楽器も専門ではないので、詳しい方、もしも間違えやベターな呼び方がありましたらご教授頂ければ幸甚です。
1907年のバカラカタログのページ
カディスの大聖堂の大パイプオルガン ©Duomaxw
「ジュドルグ」Jeux d'orgue (オルガンのパイプ)のディテール
一方、大文字で書かれている形状の「ゴンドラ型」ですが、同年のカタログ内には異なる形状でも同様に「ゴンドラ型」と呼ばれている品が複数があり、その複数の「ゴンドラ型」に共通する点はカップ部分が滑らかな流線形(逆卵型)であることです。
ゴンドラ型の定義に関しては以下のリンクをご参照下さい。
因みにこの「forme GONDOLE Jambe prisme e bouton=形:ゴンドラ型 脚:プリズムとボタン」-実際に使ってみると非常に持ち易く使い易いのですが- これと全くの同型で別パターン(デコレーション)の代表的なモデルには他にフジェールがあります。フジェールリンクはこちら。
が、左はバカラのRenaissance。右はサンルイの(Saint Louis)のLianeというモデルです。
見分け方は、Renaissance、Lianeともカップの口がやや窄まっています。
またRenaissanceは脚部が逆転していてカットは全て長さが同じです。
Lianeは脚部もカットが長短あるところもよく似ていますがカットの先端が尖っています。