2016年1月10日日曜日

バカラ アルクール BACCARAT HARCOURT

2020年2月18日「映画とグラス」を追記しました。
Photo©Patrick Schuttler
Courtesy: Baccarat 

バカラのロングセラー&ベストセラーNo.1のこのモデル、非の打ち所がない完璧なデザインですね。
クラッシックなグラスのアーキタイプのシルエットで六面分割の大胆なフラットカットを施した形状は見方により古典的ともモダンとも見れます。光の屈折度の大きいクリスタルの特性をフルに生かした普遍的な美しさです。

また赤ワイン好きにはワインの色がグラスの中で屈折して映り、たまらない魅力です。


私もウォーターグラス、ワイングラス、シャンパンクープのセットを少数個持っていて、たまに気分を変えたい時に使います。写真は自分用のグラスです。



1841年リリースつまり175年生産され続けていて製造数も多く、またローハンシリーズの様にアンティークと新品での明らかな差というのも無いため、グラス類をオークション出品や販売の予定は今のところありません。

この項はモデルと名前の由来の紹介のみ、ネタが切れた時にブログに載せようと下書きを用意していたのですが、今回たまたま、現在製造されていない小型のデキャンタを入手したので、この機会にブログに公開する事にしました。まだ面白いエピソードなどが欠けているので、この先加筆するかもしれません。

名前の由来
このモデルが1825年アルクール公爵家の婚礼のためにこのデザインの原型が作られたのは有名な話。以来、ナポレオン三世以降はエリゼ宮をはじめ、世界の王族に使用されていて、さらに1917年にはローマ法皇ベネディクト十五世によってカソリックの総本山バチカンで使用するためにも選ばれています。

このアルクール、現在の完成された形になったのは1841の様です。実際バカラの1840年のカタログには完全に同形のものは見当たりませんが、1841年のカタログには現行品と全く同形のモデルがシリーズで登場しています。

1841年のカタログ この頃はまだアルクールという名前はついていません。



ヴィンテージバカラ アルクール 小型 デキャンタ訳有り
(新しいマークあり1970ー1990年製造)
Ø7.6cm H16.8cm- H20.7cm 

首下容量200ml強



ではアルクール家とはどんな貴族だったのでしょう。

アルクール家はバイキングを祖先とするノルマンディー地方の中世の有力な貴族でノルマンディーの公爵家でした。10世紀からノルマンディー地方を治める現存するフランス貴族の中では最も古い貴族の家系の一つです。そして同名の町があり、アルクール家の家紋と町の紋章は同一です。

アルクール家の家紋=アルクール町の紋章


アルクール家は現在は3つに枝分かれし、 フランスにはOlonde-Harcourt, d'Harcourt公爵家、 Harcourt-Beuvron家の二家とイギリスのVernon Harcourt伯爵家があります。

Sir Joshua Reynoldsのエッチングで見るイギリスに定着したウイリアム=アルクーク伯爵三世、ジョージ・サイモン=アルクール伯爵二世、エリザベス・アルクール・バーノン伯爵


地元ノルマンディーには1100年に建設されたアルクール城が現存していますので、写真をご紹介します。
現存するアルクール城エントランス正面から Photo©Osbern


現存するアルクール城  Photo©Tango7174

アルクールは鉄道駅ブリヨン(Brionne)から西南西に約4kmの位置します。
パリからブリヨン(Brionne)へはパリ サン・ナザレ駅からロワン(Rouen)乗り換えで約2時間20分で到着します。  



映画とグラスのコーナーです。


このグラスは極めて有名なのにもかかわらず、あまり映画に登場しません。
今まで見たことがあったのはパゾリーニ監督の「ソドムの市」でだけでしたが場面がとてもグロテスクでこのブログにイメージを載せたくありませんでした。
パゾリーニは戦後イタリアを代表する知識人ですが、映画人として今一つというのが私観です。

先日友人宅の映画会でマーティン・スコッセーゼ監督の(日本語表記ではスコッセシ)「エイジ・オブ・イノセンス・汚れなき情事」(1993年)で登場したのでご紹介します。

1870年代のニューヨークの上流階級が舞台で絵画なども含めたインテリアの舞台セットが極めてゴージャスな映画で、クリスタル好きにはそれだけでも楽しめます。
クリスタル類は全てバカラが提供しているため、様々なモデルが登場します。
使用されているのはキャンドルスタンドなどの置物のほか、マルメゾン、コルベール、ジェノバ、アルクールとアルクール・エンパイヤー(アルクールに金彩)などです。


静かな食事場面アルクールが使用されています。


結婚準備の品々。ルッキーノ・ヴィスコンディの映画を思い出すようなゴージャスさです。


夫婦でパリに旅行した際に晩餐会で使用されているのはアルクール・エンパイヤー







クロード・シャブロル監督の1976年の映画 Folies bourgeoises (「狂ったブルジョワたち」日本未公開)でも愛人とベッドでシャンパンを飲むシーンにアルクールのフルートグラスが使われているので掲載します。