2015年11月28日土曜日

アンティークバカラ スカルラッティ BACCARAT SCARLATTI





アンティークのバカラのモデルの中でも最も人気のあるモデルの一つと言えるルリ(LULLI)シリーズのロングステムヴァージョン。
カップ部は同型同パターンですがスカルラッティ(SCARLATTI)という別の名前がついています。

非常に珍しく、今回初めて入手しました。

ルリと同様、優雅なアシッド・エッチングが施されていて、ロングステムなので現代的な使い方が出来ます。

1933年のカタログに掲載されているルリとスカルラッティ

名前の由来

モデルの名になっているドメニコ・スカルラッティ(Domenico Scarlatti 1685-1757) はイタリア、当時のナポリ王国出身の作曲家でチェンバロ奏者。J.S.バッハ、ヘンデルと同年生まれです。
アレッサンドロ・スカルラッティ(1660-1725)は父親でやはり作曲家ですが、ショートステムのモデルの名前の由来するジョヴァンニ=バッティスタ・ルッリとドメニコ・スカルラッティの間にはイタリア生まれで外国の宮廷音楽家だったという共通点があることから、バカラ製品のモデル名はドメニコ・スカルラッティに由来しているのだと考えるのが適切でしょう。
詳細はアイテム紹介の後に続きます。


©Galleria Kajorica




ドメニコ・スカルラッティ

ドメニコ・スカルラッティは16歳の時にナポリ王のチャペルのオルガン演奏者に抜擢され、18歳でオペラで劇場デビューを果たすなど、極若い頃からその才能の頭角を現します。
ヴェネツィアに留学した後(当時ナポリとヴェネツィアは別の国)1709年にローマに赴き、オットボーニ枢機卿からチェンバロの力量はヘンデルより上とのお墨付きを貰います。但しオルガンの力量はヘンデルの方が上と判断されたとのことですが。

1719年に当時8歳のポルトガル王女 マリア・マグダレナ・バルバラ(マリア・マグダレナ・バルバラ・ハビエル・レオノール・テレサ・アントニア・ホセファ・デ・ブラガンサ、María Magdalena Bárbara Xavier Leonor Teresa Antonia Josefa de Bragança, 1711- 1758)通称バルバラ・デ・ブラガンサ の音楽教師として1727年王女がスペイン王家に嫁ぐまでポルトガルに滞在します。

その後一旦ローマに戻り結婚し、スペインのセビリアに移住。

六年後の1733年にフェルナンド6世が即位しバルバラ・デ・ブラガンサが王妃になると、スカルラッティはスペイン王室付きの音楽家としてマドリッドに招待され、1757年に71歳で亡くなるまでの生涯をスペインで過ごします。


ポルトガル王女時代のバルバラ・デ・ブラガンサと10歳のスペイン王子フェルナンド


バルバラ・デ・ブラガンサは長く子宝に恵まれなかったポルトガル王の第一女として幼い頃から一流の教育を受けて大切に育てられますが、美しい女性ではなく、スペインとポルトガルの関係を安定させるための政略結婚で嫁いだ二歳年下のスペイン王子フェルナンドは初対面の際に非常に戸惑ったというエピソードが残っています。

でも共通する音楽への情熱のおかげで間もなく二人は深く愛し合うようになり、跡取りに恵まれなかったにも関わらず生涯仲の良い夫婦だったと言われています。

生演奏以外に音楽を聴く方法がなかった時代。バルバラの容姿にがっかりした音楽好きのフェルナンド王子が、美しいスカルラッティの創作曲を奏でるバルバラに魅了されていく様子を想像してしまいました。

バルバラにとってスカルラッティがいかに大切な存在であったか、王女時代の音楽教師を嫁ぎ先から呼び寄せるという当時としては異例の抜擢からも察することが出来ます。


王妃バルバラ・デ・ブラガンサとスペイン王フェルナンド6世

スカルラッティが他界した翌年の1758年にバルバラが47歳で病死した後、国王フェルナンド6世は悲嘆にくれてマドリッド郊外のVillaviciosa de Odón城に閉じこもり、食事も拒否するようになり、翌年妻の後を追う様に亡くなっています。

Villaviciosa de Odón城

作曲家としてのスカルラッティの活動ははオペラ、室内楽、オルガン曲、宗教音楽など多くの作曲を手がけましたが、特にチェンバロのための555曲にのぼるソナタは有名でポルトガルやスペインの音楽にも多くインスピレーションを得ています。

同時に鍵盤楽器の演奏を画期的に進歩させた功績も高く評価されていて、ショパン、ブラームス、バルトーク、ショスタコーヴィチなどのスカルラッティの音楽を愛した後世の作曲家に影響を与えたと言われています。


お薦めの音楽リンクは:
こちらはスカルラッティのお味見程度 ピアノによる演奏です。
Domenico Scarlatti: Sonata in Si minore K 27

チェンバロ 有名なソナタK239 Fandango 
スペインの舞踏曲からインスピレーションを得ています。
D.Scarlatti - Fandango

チェンバロ 初期のソナタ K1-K19 
Domenico Scarlatti Harpsichord Sonatas K1 - K19, Scott Ross 01

チェンバロ 最後期のソナタ K540-K555

こちらはピアノ演奏。一時間と長いですがお薦めです。
Domenico Scarlatti - Sonatas Ivo Pogorelić