2015年11月28日土曜日

アンティーク バカラ リド BACCARAT LIDO

©Galleria Kajorica

在庫状況や個々のコンディションはオークションページをご覧下さい。

コーン形状にアチッドエッチングのデコレーションでアールデコをそのまま絵に書いた様なデザインです。1930年頃リリースだといいます。
有名なモデルなのであえて色々説明する必要はないかもしれません。
ジオメトリックな形ですがとても持ち易いグラスです。

有名なモデルなので前から知っていましたが、この度初めて入手しました。現物をもってみると、写真から想像したよりもクオリティーを感じます。



名前の由来
パリのシャンゼリゼにリド(LIDO)という世界的に有名なキャバレーがあるのでつい短絡的に結びつけてしまいそうですが、キャバレーの名は第二次世界大戦後の再オープンの際に改名され「リド」となったもの。ベルエポックから有名だった同店の前身の店の名前はLa Plage de Paris(ラ・プラージュ・デ・パリ)でした。このシリーズが1930年代リリースであることを考えると、リリース時に有名なキャバレーはリドという名で存在していなかったことになり、直接関係はないと考えた方が良いでしょう。

La Plage de Paris(ラ・プラージュ・デ・パリ)はパリのビーチの意で、因に今 ラ・プラージュ・デ・パリ というとセーヌ川沿いの日光浴のできるビーチを指します。)

キャバレーのリドの名はLido di Venezia (リド・ディ・ヴェネツィア)つまりイタリア、ヴェネツィアのリド島の海岸からインスピレーションを受けて命名したと言われていますが、バカラのこのシリーズも当時流行のリゾート地だったヴェネツィアのリドの名を取ったと考えるのが適切だと思います。




詳細はアイテム紹介の後をご覧下さい。

©Galleria Kajorica




©Galleria Kajorica


Lido (リド)とはイタリア語で海岸の意味ですが、ヴェネツィアにはリド島という島がありベネツィア本島冲に本島を守る天然の防波堤の様に11kmと細長く横たわっています。広いビーチと島中心部に立ち並ぶ優雅な高級ホテルで 有名なリゾート地でした。
 戦後は近隣の海岸の工業化が進み海水の質が落ちリゾート地としての評価は昔程ではなくなりましたが、未だに往年の高級リゾート地独特の良い雰囲気を残しています。

私もビエンナーレ等でヴェネツィアに行くときは観光客でごった返すヴェネツィア島よりもリド島に滞在するのが好きです。夏ならば1、2泊でも贅沢なバカンス気分になれます。


Google map satelite で見るリド島


また30年代のリド島では現在も有名なヴェネツィア映画祭が始まりました。1932年から数ある高級ホテルの一つ Hotel Excelsiorのテラスでに行われ、その後のフェスティバル成功と拡大で専用の建設物Palazzo del Cinema(パラッツォ・デル・チネマ)が1937-38年に建設されたり、30年代前半にはプライベートの小型飛行機が発着出来る空港がオープンしたりと時代のVIPを引き付けるのに十分魅力的なリゾート地だったのでしょう。


1928年夏の観光シーズン(4-10月)のリドの広告
バカラのグラスの「リド」がとても似合う雰囲気です。




1925年(左)1930年(右)のリドの観光広告。
たった5年ですが流行の変化が手にとる様にわかります。



リド島はそれ以前も有名で、1912年に発表されたトーマス・マンの小説「ヴェニスに死す」もこのリド島が舞台で、詩人バイロンや作曲家マーラーも好んで滞在したと言われています。

このリンクと画像はルッキーノ・ヴィスコンティ監督のトーマス・マン原作「ヴェニスに死す」の日本語版トレーラー。 1971年発表の映画ですが二十世紀初頭のリド島の雰囲気が再現されています。前述の広告よりも20年くらい前の時代考証ですが既にヨーロッパの各地から貴族やインテリの集まる高級リゾートでした。



「ヴェニスに死す」の舞台になったHotel des Bainsアールデコ期のポスタ―

因にトーマス・マンの小説の日本語版ではホテル名が「海水浴ホテル」と意訳されていて。。。
確かに意味的には正しいですがイタリア人にとっても「des Bains」は外国語(フランス語)の固有名詞なのだから意味で訳さず音で「デ・バン・ホテル」または「ホテル デ・バン」と訳して欲しかったです。


Hotel des Bains の現在の姿 


サウンドトラックに使われているグスタフ・マーラー のアダジェット (交響曲第5番、第4楽章)も素敵で、この映画を見てマーラーのファンになった人も少なくないのではないでしょうか。

全楽章お聞きになりたい方はこちらのリンクがお薦め
カラヤン指揮のベルリン・フィルの演奏のものが有名ですが、個人的な趣味でまたアバド指揮のドラマチック演奏のビデオを選びました。